スターエンジニアの集い


 クニッパーズ(写真右)の歩道橋コンペ勝利案を批判するコンツェット(写真左)


2011年6月末日,ベルリン工科大学にて,世界に名立たる“スターエンジニア”を集めたシンポジウムが行われた.非常に珍しい機会だったので,古い話題ではあるがまとめておきたい.主なプレゼンターは以下の5人.
  • スイスのJürg Conzett
  • ベルギーのLaurent Ney
  • ドイツのJan Knippers
  • チェコのJiri Strasky
  • イギリスのChris Wise
それに研究者であるアメリカ/スイスのTom F. Peters氏が加わった非常に豪華な顔ぶれのシンポジウムであった.

シンポジウムのテーマはエンジニアの創造性といったあたり.仕掛け人は,ハンブルクのHafenCity 大学 (HCU)で教鞭をとるアネッテ・ベーグレ教授(上写真中央).シンポジウム冒頭の挨拶でもあったが,彼女には,エンジニアの世界にはクリティークへのリスペクトが欠けているのではないか,異なるポジションのエンジニアを集めてエンジニアリング・デザインの多様性を紹介したい,という想いがあったようである.2009年にも,このようなシンポジウムが行われ,その際は鉄道橋で紹介したスペインのPedeltaのソブリーノ氏とイギリスのAtelier One のNeil Thomas氏が講演を行った.今回のシンポジウムは言わば,その続きであった.

*

余談ではあるが,このような話を書くと,ベルリンでは(エンジニアにとって)面白いイベントが,さぞ頻繁に行われているように思う方もいるかも知れない.しかし,このようなエンジニアリング・デザインの文化的な隆盛がベルリンで起こったのは,実はここ数年の話である.2004年にマイク・シュライヒがベルリン工科大学の教授職に就いてからと言っても,過言ではないだろう.それまでの(そして無論今もそうであるが),ドイツのエンジニアリング・デザインの中心地はシュトゥットガルトである.

個人的な話になるが,私が研究を始めた2006年頃のベルリンは,文化的な多様性という意味ではすでに世界有数のメトロポリタンではあったが,エンジニアリング・デザインとしては不毛の地であった.当時シュトゥットガルトに住んでいる友人らが,様々なイベントやアクティビティに参加しているのを見聞きして,よく羨望の思いを胸に抱いたものである.そこから,シュライヒ,そして当時准教授の立場であった上述のベーグレらの活動を通して,次第にベルリンの文化が創造されていったのである.


橋梁などのインフラは,そのものについて語られることはあっても,その設計者について語られることは少ない.文化は人によって創造される.橋梁やインフラ,建築構造物が文化の一端を担うようになるには,もっと創る人に焦点をあてないといけないのではないか.などと,考えているので,このブログでは今後もできるだけ“人“について記述していきたい.

閑話休題.各人の講演に先立ち,マイク・シュライヒから挨拶があった.以下は簡単な要約.

「今日集まったエンジニアは世界的に名のあるエンジニアで,年齢で言えば(開きはあるが)戦後世代である.良いデザイン,質の高いデザインが我々の共通のゴールである.時に,アーキテクトは“形”だけに責任を持ち,エンジニアは“解析”だけに責任を持つといった風潮がある.これは一面では正しいが,一面では誤りである.設計者はそれぞれの立場で皆がBaukultur(建設文化)を創造する責任を持つのである.」

(つづく)


Die Kunst der Ingenieure _ Best of Engineering _ 6 Positionen
Link: www.detail.de
Link: ingenieur-baukunst.de
Termin: 30. Juni 2011, 14-20 Uhr
Ort: TU Berlin, Gustav-Meyer-Allee 25, 13355 Berlin


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