マイク・シュライヒがISE(構造工学協会)のゴールドメダルを受賞



先月,恩師のマイク・シュライヒがISE (Institution of Structural Engineers:構造工学協会)のゴールドメダルを受賞したとのニュースが飛び込んできました.

http://www.istructe.org/news-articles/2015/announcements/mike-schlaich-presented-with-gold-medal-by-the-ins


ISE1908年に設立されたコンクリート協会を起源として,現在では世界105ヶ国,会員27000人を超える国際的な協会です.ゴールドメダルはこの協会の最も大きな権威ある賞として,構造工学に顕著な貢献をした人物に贈られるものです.

Sassnitz Footbridge > バルト海を望む橋
過去には例えばFreyssinet(1957), Candela(1960), Nervi(1967), Arup(1973), Leonhardt(1975), Morandi(1980), Happold(1991), Calatrava(1992), Virlogeux(1996), Baker(2010)などこの世界の歴史を築いてきた偉人たちの名前が並びます

そして忘れてはいけないのが,1990年には父親のヨルク・シュライヒが受賞していること.父子でこのような大賞を受賞するという快挙.マイクも受賞へのコメントで,父親からの影響を受けていると正直に語っています.(父子のツーショット写真はこちら)自身のエンジニアとしてのルーツを,子供の頃に,その建設からずっと見てきたミュンヘン・オリンピック競技場に,見ているというのは興味深い話.前回のエントリでちらっと書いたオットーとの攻防も間近で見聞きしていたんでしょうね.
 
mike schlaich interview, Speech 10/2013: Structure

もともと写真を勉強したかったそうですが,父親に説得される形でエンジニアリングの世界に入ってきたというエピソードも面白いですね.余談ですが,ヨルク・シュライヒの子どもたち,つまりマイクの妹弟たちは,グラフィックデザイナーや映画ディレクター,アーチストなので,家庭にクリエイティブな土壌があったということでしょう.個人的な見解ですが,エンジニアリング,特に橋梁エンジニアリングは質実剛健な世界で,クリエイティブな世界とは少し遠いのが普通だと思いますので,少々珍しいですね.

Canopy for exit of customer center of Autostadt in Wolfsburg
 恩師について語るというのもおこがましい話ですが,私がマイク・シュライヒを語るとすればそのバランス力の素晴らしさに尽きます.設計の場と教育の場を横断し,設計においては,長大橋からケーブルネットやシェルまで,研究においては超軽量コンクリートからアダプティブ構造まで.「構造芸術」への啓蒙的な活動をしつつ,国際的な活動でも,例えばfibの歩道橋の設計ガイドラインの作成で中心的な役割と果たしたりと,その活動の範囲の広さもさることながら,その全てにおいてクオリティを確保しているというのは,尊敬の一言.著書の一つである「Footbridges: Construction, Design, History」の出版は,2007年までさかのぼりますが,現在でもこれだけ高品質な橋梁デザインの本は世界のどこからも出ていません.

Footbridges:ドイツ語版,英語版,そして日本語版!
大学の教育においても,シュトゥットガルト・スクールの理念に従った,コンセプチュアルデザインを取り入れる教育改革は非常に成功しているように感じます.マイクが教授に就任した2004年頃は,ベルリン工科大学の構造工学科はさほど人気があったわけではなく,入学の応募は50人ほどでした.それが今では600人の応募があるそうです.

今後も設計と研究の両方で,まだ見ぬ地平線を見せてくれることは間違いなさそうです.

ちなみに,来週(5月12日から)奈良で開催されるIABSEではキーノートスピーカーとして講演をします.


Bridge Sculpture "Slinky springs to fame"

IGA 2003 Rostock - Tower

IGA 2003 Rostock - Mahlbusen Bridge

Glacis Bridge, Ingolstadt
歩道橋の主構造としてのスチールリボンと,自動車橋の補剛材としてのそれを,同じ高さに配置し連続させたという珍しい橋.非公式では多く協働していると思いますが,私の知るかぎりでは,ヨルク・シュライヒとマイク・シュライヒ両名のsignatureが公式で入っているのはこの橋しか知りません.

Bushaltestelle, Haidelborn

ポルシェ・パビリオン, Wolfsburg > ポルシェの形をしたパビリオン - 片持ちのシェルに構造的合理性はあるか?
Ting Kau Bridge, 香港
Yamuna Bridge,インド(2016年竣工予定)

 クリストとのMastabaプロジェクト:ドラム410000個でピラミッド的な巨大オブジェ(300m x 230m x 150m)を作るという壮大なプロジェクト.ETH,イリノイ大, ケンブリッジ大,法政大に構造と施工法の考案を依頼し,その比較とジャッジをシュライヒが行ったとのこと.

 [参考]
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受賞へのコメントDancing in Chains
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Speech 10/2013: Structure, mike schlaich interview: aesthetics is the basic principle of our structures

http://momentum-magazin.de/de/auf-sand-gebaut-christo-plant-monumentalplastik-mit-schlaich-bergermann/


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